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講師のせきねちかさん 育成 2

神奈川県民ホール

劇場運営マネージメント講座
シリーズ「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設の取り組み」
第14回 情報のユニバーサルデザイン「ウェブアクセシビリティ」の重要性

  • 2022年3月30日 実施
  • 中区福祉活動拠点 なかふく 多目的研修室

昨年5月に障害者差別解消法が改正されました。この改正により、民間企業のホームページをウェブアクセシビリティ対応にすることが義務付けられました。民間だから関係ないと思うかもしれませんが、行政から施設の管理運営を受託している指定管理者やJV構成メンバーも、民間企業に含まれます。つまり、ほぼすべての文化施設は、ホームページをウェブアクセシビリティ対応にしないと、法令違反になるということです。今初めて知った方も多いのではないでしょうか。県民ホールもつい最近知りました。

 

ホームページのウェブアクセシビリティ対応とは、ウェブのユニバーサルデザイン化、あるいはウェブ空間における合理的配慮ともいえます。視覚に障害のある方には画面読み上げ、聴覚に障害のある方には字幕表示機能を提供することが、それにあたります。他にも様々な障害への対応が必要になりますが、その作業を実際に行うのは私たち施設運営者ではなく、契約しているホームページ管理会社です。さてそうなると、私たち施設運営者は、発注して完成を待っていればいいのでしょうか。いえ、そんなことはありません。そもそもウェブアクセシビリティは誰のためになぜ必要なのかを、ちゃんと理解して、それをホームページ管理会社と共有するという課題があります。そこで今回の講座を企画しました。

 

講師をお願いしたのは、ユニバーサルデザインの専門家であり、ウェブ技術にも精通した関根千佳さん。そしてサウンドスケープデザイナーであり、視覚障害の当事者として国や行政の政策にも関わる武者圭さんのお二人です。講座は二回連続で行われ、一回目の基礎編を関根さん、二回目の実践編を武者さんが受け持ちました。

 

「今あなたが視力を失ったら、今の仕事を続けられますか?」

そんな問いかけで関根さんの講座は始まりました。グループディスカッションの後、みな無理と答えます。そこで講師は続けます。

「ではなぜ無理なんですか?」

目を使う仕事だから。頼れる人がいないから。答えは様々です。

なぜ無理なのか、更に話を進めて見えてきたのは、障害を負った人が能力を発揮できる環境が整っていないことでした。

 

能力を発揮できる環境。慣用句のように使い古された言葉ですが、実現するのはなかなか容易ではありません。今回のテーマであるウェブアクセシビリティにしてもそうです。言葉では分かっていても、当事者にとってどれほど重要なのか、私たちは想像するしかありません。重要性を理解できないままでは、何をどこまですればいいのかも分かりません。そんなモヤモヤした迷いを、講師は一言で断ち切ります。

「ウェブアクセシビリティは人権です」

 

この障害にはこの機能、あの障害にはあの機能などと小手先のことに気が行きがちで、人として当然の権利という大前提を忘れていました。講師は更に言葉を続けます。

 

「障害のある人とない人を分けず、同じ体験ができること」

この言葉を聞いて、誰のためになぜ必要なのかという問いもナンセンスだったことに気づかされました。

 

私たちは無意識のうちに、障害のある人とない人を分けてしまいます。障害の有無にかかわらず同じ体験ができ、それぞれの方法で何かを実現できることが、能力を発揮できるということです。ウェブアクセシビリティの提供は、当然の権利を保障することなのだと気づかされた90分でした。

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