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グループワークの様子 育成 2

©神奈川県民ホール

劇場運営マネージメント講座
シリーズ「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設の取り組み」
第16回 認知症を知る

  • 2023年2月22日
  • 大会議室

文化施設には多くの高齢者が訪れます。その中には、本人の病識の有無問わず、認知症の初期段階とされるMCI(軽度認知障害)の方も含まれています。認知症状を発症している方への対応は、相手に寄り添う気持ちだけでは十分ではありません。もっと科学的な知識が必要です。
そこで神奈川県高齢福祉課の協力を得て、認知症の基礎知識と対応を学ぶ講座を開催しました。講師は、認知症看護認定看護師の髙橋晴美氏と、かながわオレンジ大使の山上様ご夫妻です。

 

最初は髙橋氏による認知症サポーター養成講座です。

認知症サポーターとは、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、認知症の人やその家族に対して「できる範囲で」手助けする人のことです。医療や介護の専門家ではないが、認知症の方のサポートする人といったところでしょうか。このサポーターを増やすために厚労省が行っているのが、認知症サポーター養成講座です。内容は認知症の定義に始まり、高齢による脳の機能低下、認知症の始まりであるMCI、発症による様々な症例、当事者との接し方など、基礎と応用を70分の集中講座で頭に詰め込みます。こうして一気に30人の認知症サポーターが誕生しました。

 

休憩を挟んで、次はかながわオレンジ大使の山上様ご夫妻に、当事者の立場から話していただきました。

ご主人の裕司さんは、もともとはご自分で会社を経営され、海外での仕事もこなされる活動的な方でした。しかし2019年に若年性アルツハイマー型認知症を発症し、人生が一変します。
アルツハイマー型認知症の特徴は記憶を失う事です。物忘れなら何かのきっかけで思い出しますが、記憶を失うということは、その体験自体が記憶から消去されることです。奥様の恵美さんは裕司さんを連れてスーパーへ行き、野菜の名前を一つ一つ教えたそうです。文化施設での体験があれば話してくださいとお願いしたところ、以前に神奈川県民ホールでオペラを鑑賞した際に感じた困難や、あると助かる対応についても話していただけました。あると助かる対応の一つが、

「手助けが必要な方はお申し出ください」

という張り紙です。この一言があるだけで本当に安心できると、恵美さんはしみじみ話して下さいました。

 

お2人のお話しの後は、髙橋氏によるグループワークです。5~6人が1組となり、それぞれの施設で経験した事例とその対応について皆で話してもらいました。髙橋氏とアシスタントの伊藤氏、山上様ご夫妻も各テーブルをまわり、適時参加者の質問に答えます。最後に各テーブルごとに発表があり、髙橋氏と山上様ご夫婦の総評があり、講座は終了しました。

 

今から13年後の2036年、日本人の3人に1人が高齢者となり*、そのうち3割超が認知症と予想されています。

高齢者や認知症の方がいるのが普通となった社会で、文化施設の役割は何だろうとずっと考えていましたが、講座を終えて答えの一つを見つけたような気がします。

「文化施設の役割の一つは、高齢者や認知症の方の生活の質を守ること」。

まだまだ気づきの第一歩にすぎませんが、日々の業務の中でもっと多くの答えを見つけていけそうです。

 

*令和4年版高齢社会白書 内閣府

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