ローエングリン ビジュアル

イラスト:榎本マリコ

神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.2

サルヴァトーレ・シャリーノ作曲『ローエングリン』

2024年10月、上演決定!
神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズとして、オペラ『ローエングリン』(サルヴァトーレ・シャリーノ作曲)を上演します。

演出に挑むのは、映画作家・振付家・ダンサーとして活躍する吉開菜央。
今後の展開をお見逃しなく!

  • 日時 2024/10/5(土)~2024/10/6(日)
  • 会場 大ホール
  • お問い
    合わせ
    神奈川県民ホール 045-662-5901(代表)

※詳細は決定次第、発表いたします。

 

これは あなたの 居場所のはなし。

 

 

 


「翳りに咲く」
 魔術と神秘といえば、中世における芸術の主題である。さまざまなアルカナ(秘蹟)をめぐる、思考の綾。一方、狂気といえば、17世紀から19世紀におけるヨーロッパ芸術のもっとも重要な主題だろう。。
 これらはすべて、世界がまだ不均等な偏りに満ちていた時代の産物である。21世紀の現在、幸か不幸か、いつのまにか世界はすみずみまで光に照らされて、どこかすべすべとした感触をたたえるようになってしまった。
 ところが、この時代にあっても魔術と神秘を、そして狂気を執拗なまでに主題にし続ける芸術家がいる。サルヴァトーレ・シャリーノ。シチリア島に生まれ、今ではウンブリア州の片田舎に住む作曲家だ。
 イタリアの陽光の中で暮らしながらも、彼の音楽に光がさすことはない。その震える擦過音にみちた響きにさらされると、この世界の輪郭は突然になめらかさを失い、ゴツゴツとした手触りに転じながら影を作りはじめるのだ。光のとどかない領域。実はいまでもひそかにわれわれを取り巻いている、そうした翳りをシャリーノの音楽は静かに指し示す。


 ローエングリン。
 誰もがあの楽劇を思い浮かべるにちがいない。はかなくもせつない永遠の喪失の物語ではあるが、30代のワーグナーの手による音楽は、すみずみまでまばゆい光に満ちている――しかし、もしもこの物語の翳りに、翳りだけに焦点をあてたとしたら。
 シャリーノの「ローエングリン」はそうした試みだ。2024年、この翳りに咲くオペラが横浜に漂着する。
(神奈川県民ホール 芸術参与:沼野雄司)

 


《神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズ》

シリーズ第1弾は、2022年10月に「浜辺のアインシュタイン」を上演いたしました。
東京オリンピックの開会式・閉会式での起用も記憶に新しい平原慎太郎(演出・振付)、小澤征爾に見いだされた気鋭の指揮者・キハラ良尚を中心に、これからの日本音楽界、舞踊界を牽引する若い力を結集し、日本初演から実に30年ぶりとなる新制作上演に取り組み、革新的なステージに大きな支持を得ることができました。

「浜辺のアインシュタイン」特設サイト

https://www.kanagawa-kenminhall.com/einstein


【エルザ役】橋本愛さんよりメッセージ!

出演者/スタッフ

【エルザ役】橋本 愛

1996年生、熊本出身。
2013年、映画「桐島、部活やめるってよ」、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」出演。同年、日本アカデミー賞新人俳優賞、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞など数々の新人賞に輝く。NHK大河ドラマ「西郷どん」(2018)「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019)「青天を衝け」(2021)、NTV「家庭教師のトラコ」(2022)、Netflixドラマ「舞妓さんちのまかないさん」(2023)、映画「熱のあとに」(2024)のほか、数々のドラマや映画、舞台で活躍し、鮮烈な印象を残す。人気YouTubeチャンネルでの「木綿のハンカチーフ」「まばたきの途中」歌唱や、週刊文春連載「私の読書日記」、シャネルフレグランス&ビューティアンバサダーとしての活動など、凛々しくも柔らかな才能が注目を集めている。

 


【指揮】杉山洋一

©︎ayumi kakamu

作曲家。1969年東京生まれ。作曲を三善晃、フランコ・ドナトーニ、サンドロ・ゴルリに、指揮をエミリオ・ポマリコ、岡部守弘に師事。作曲家としてミラノ・ムジカ、ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、国内外より多くの委嘱を受ける。指揮者として東京都交響楽団、ヴェローナ野外劇場管弦楽団、ボローニャ・テアトロコムナーレ交響楽団など日欧で多くのオーケストラ、アンサンブル、オペラを指揮。オルガナイザー、プロデューサーとしての活動も活発で、高橋悠治作品演奏会I「歌垣」(2018)、同II「般若波羅蜜多」(2019)、松平賴暁のオペラ《The Provocators~挑発者たち》(2018)、フェニーチェ堺のオープニングシリーズ「武満徹ミニフェスティヴァル」(2019)などに携わり、いずれも指揮も担当している。作曲家として、第13回佐治敬三賞、第2回一柳慧コンテンポラリー賞受賞。指揮者として2018年芸術選奨文部科学省大臣新人賞受賞。1995年にイタリア政府から作曲奨学金を得て以来ミラノ在住。現在ミラノ市立クラウディオ・アバド音楽院で教鞭をとる。

 


【演出】吉開菜央、山崎阿弥

 

吉開菜央 メッセージ

『ローエングリン』を聴いた時、自分にもこんな風に、あらゆる情報が一気に心身に雪崩れ込んできてしまって、意識や記憶がバラバラに繋がって、自分が自分で作った物語から抜け出せないことに苦しんでいた時間があったことを思い出した。主演のエルザは約1時間、不平不満を観客の耳元で延々と囁き続けるが、人の輪郭を失うほど狂っていて、その声は人間だけでなく、自然現象など万物の音も自らの心身に憑依させて、言葉にならない音の波で、生きているということを叫んでいるようにも感じる。ある意味でこれは、神懸かりの状態から生まれた歌であり、詩であり、物語と言えるのかもしれない。(ただの狂人の戯言である、とも言える。)いずれにしても、ひとりの人間の「声と身体をひとつの宇宙として捉える」こと、これはシャリーノ氏の言葉からの引用だが、この、ある特殊な状態を劇場という空間に立ち上がらせるために、最高のチームで挑めることを、心から嬉しく思う。

演出:吉開菜央

1987年山口県生まれ。映画作家・振付家・ダンサー。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業、東京藝術大学大学院映像研究科修了。作品は、国内外の映画祭での上映をはじめ、展覧会でもインスタレーション展示され、MVの監督や振付、出演も行う。「Grand Bouquet」サンディエゴアジア映画祭 Best International Short受賞(アメリカ・2019)、カンヌ国際映画祭監督週間2019正式招待、「風にのるはなし」Motif Best experimental film(アラスカ・2018)、「ほったまるびより」文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞受賞(2015)、「みづくろい」YCAM架空の映画音楽の為の映像コンペティション最優秀賞受賞(坂本龍一氏推薦・2013)。米津玄師MV『Lemon』出演・振付。2020年12月には自身にとって初の監督特集上映「DANCING FILMS」が開催された。最新作「Shari(2021)」は全国で公開、ロッテルダム国際映画祭に公式選出。

 

山崎阿弥 メッセージ

声は、絶えず見ていた、呼吸という命の断続を時折輝かせて。眼差しは本来誰のものでもなく、その輝きがそこに在るだけのことだった。やがて光が世界に反映し、たゆたう相似たちに名が与えられ、あなたは陰に潜み、彼女だけを孤独に、見られる対象にした。けれどここで、ずっと眼差されてきた彼女が、あなたの方へ向き直り、眼差しを浴びせ始める瞬間に、あなたは立ち会うだろう。あなたは、どこにも隠れることを許されず、揺れ、燃え、震え、生きていることを知らされ、気づけば視線の先に彼女の姿であなたが立っている。この、ともすれば虚(うろ)のような物語に、ひとり、ひとりが攫われていくことを願います。橋本愛の声が眼差す輝きを、心から信じています。

©Courtesy the artist and PAC Padiglione d'Arte Contemporanea, Milan. Photo Lorenzo Palmieri 

演出:山崎阿弥

声のアーティスト、美術家。自らの発声とその響きを耳・声帯・皮膚で感受し、エコロケーションに近い方法で空間を認識する。音響的な陰影をパフォーマンスやインスタレーションによって変容させ、世界がどのように生成されているのかを問う。2023年からは天文学者、素粒子物理学者との対話とコラボレーションを進める。ACCフェロー(2017)、国際交流基金アジアセンターフェロー(2018)、瀬戸内国際芸術祭2019、「語りの複数性」(東京都渋谷公園通りギャラリー、2021)、「KYOTO STEAM」(京都市京セラ美術館、2022)、「JAPAN. BODY_PERFORM_LIVE」(Padiglione d'Arte Contemporanea、イタリア、 2022)、クリスチャン・マークレー《マンガ・スクロール》歌唱(江之浦測候所、東京都現代美術館、 2021/2022)、Hirshhorn Museum and Sculpture Garden 起工式(アメリカ、2022)、「Engawa」(Centro de Arte Moderna Gulbenkian、ポルトガル、2023)、G&A Mamidakis Foundation Art Prize 受賞(ギリシャ、2023)。

主催 神奈川県民ホール[指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団]