ニュース

主催事業情報 2022/3/25 【インタビュー】大塚直哉 ー「C×Baroque(シー・バイ・バロック) 大塚直哉が誘うバロックの世界 Vol.1」

今週末3月26日開催の「C×Baroque(シー・バイ・バロック) 大塚直哉が誘うバロックの世界 Vol.1 バロックの生まれたとき~オペラの誕生」。チェンバロ奏者の大塚直哉さんに公演の聴きどころなど話を聞きました。

 

大塚直哉 ⒸT.Kaneiwa

 

音楽の世界でのバロックの運動は、まずは声楽の世界で起こりました

 

──今年度から始まった新シリーズ「C×Baroque(シー・バイ・バロック)」についてお聞かせください。

 

大塚 これまで「舞台芸術講座」というかたちで8年ほど「チェンバロの魅力」というシリーズをやってきたのですが、今度はこのチェンバロという楽器を通して、17世紀から18世紀中ごろまでのおよそ150年にわたるバロック音楽のいろいろな楽しみ方をのぞいていただこう、というシリーズです。

 

──初回は「バロックの生まれた時~オペラの誕生」とのことですが、聴きどころを教えてください。

 

大塚 「バロック音楽」というと、バッハのブランデンブルク協奏曲とか、ヴィヴァルディの四季、あるいはパッヘルベルのカノン、といった具合に器楽曲のイメージが強いのですが、じつは、音楽の世界でのバロックの運動は、まずは声楽の世界で起こりました。大昔のギリシャ悲劇をお手本に、言葉が持っている「情感」を生かして人の心を動かす「朗誦」のスタイル(これはのちにレチタティーヴォと呼ばれるものにつながっていくのですが)、これがひとつの理想とされたのです。これによって、音楽のか書かれ方がずいぶんと変わることになりました。今でも楽しまれている「オペラ」はこの時に誕生した、と考えられています。ちょうど、日本でも歌舞伎が始まったとされるのが17世紀の初め、つまり同じ頃なのが面白いですよね。

 

ヘンデルのオペラの名場面では、素晴らしい歌手たちにいろいろな役に扮してもらいます

(左から) 鈴木美登里、中山美紀 ©︎Kohán István

 

公演の前半では、この生まれたばかりの17世紀イタリアのとくにモンテヴェルディのオペラからいくつかの場面をお楽しみいただきます。のちに「バロック」と呼ばれることになる新しいタイプの音楽を生み出そうという気概と創意工夫に満ちた作品たちです。

 

後半には、笙の宮田まゆみさんをお迎えして、笙とチェンバロの2重奏という珍しい組み合わせで、一柳慧の「ミラージュ」という作品をお聞きいただいた後、今度は18世紀の屈指の舞台人、ヘンデルのオペラから名場面を2つほどお楽しみいただく予定です。鈴木美登里さんと中山美紀さんというタイプの違う素晴らしい歌手が、いろいろな役に扮して少しずついろいろな場面をお楽しみいただくのですが、彼女たちの早替わりもどうぞお楽しみに。

 

笙のサウンドとチェンバロの音がどのような音模様を作り上げるのか、とても楽しみ

 

──「笙」の宮田まゆみさんとの共演は初めてですか?

 

大塚 はい。もちろん宮田さんの演奏を客席から聞かせていただくことはありましたが、共演させていただくのは初めてです。包容力があり、また一瞬、時を忘れさせる力もある笙のサウンドと、チェンバロの音がどのような音模様を作り上げるのか、とても楽しみです。活躍する場も、性格もだいぶ違う楽器同士ですが、だからこそかえって、「バロック的な」対比や対話が生まれるのかもしれません。

 

宮田まゆみ

 

 

ここ10年近く県民ホールのチェンバロを弾いていますが、楽器の音が深く、濃く変化してきているのを感じます

 

ー県民ホールのチェンバロについてお聞かせください。 

 

大塚 県民ホールのチェンバロは、1994年にパリでフォン・ナーゲルという製作家が作ったもので、18世紀前半のブランシェというフランスの名工の楽器をモデルにしています。鍵盤が2段ついていて、3つの弦のセットを持っている、チェンバロとしてはかなり大型の楽器です。ここ10年近く毎年、弾かせていただいていますが、楽器の音が深く、濃く変化してきているのを感じています。これからますます楽しみな楽器です。

 

神奈川県民ホールのチェンバロ ⒸT.Kaneiwa

 

 

ーこれからのシリーズ、1年ごとの楽しみ方を教えてください。

 

Vol.2 バッハの小宇宙~平均律クラヴィーア曲集第1巻 全曲 (2023年3月) 

 

大塚 「平均律第1巻」はとても謎めいた曲集で、音域もそれほど広くなく、しかしプレリュードとフーガという2つの楽章のペアを すべての調で、というとてつもなくスケールの大きい発想に基づいている作品です。チェンバロの鍵盤、という 小さな” ものを通して、このような とてつもなく大きな” ものを見る、というのはとてもバロック的な発想だな、と思います。今残されている自筆浄書譜には1722年という日付があるので、2022年度は300年記念の年なのですよね。それぞれの曲も魅力的なのですが、通して聴いたとき触れることのできるエネルギーの大きさをぜひ体感していただけたら、と思います。

 

Vol.3 バロック舞曲の魅力~フランスの宮廷舞踏と音楽~ (2024年3月)

 

大塚 バロックの魅力の一つは、ダンスからくるリズムだ、と言われています。メヌエット、ガヴォット、サラバンドなどのタイトルがバロック音楽によく登場しますが、これらはフランスの宮廷舞踏に由来しています。バッハやヘンデルといったドイツの音楽家たちも、このフランスの舞踏に大きな影響を受けています。こののちのバレエのもとにもなってゆくフランスの宮廷舞踏の名場面を、美しいバロックダンス、そして古楽アンサンブルの響きとともにお楽しみいただきたいと思います。

 

Vol.4 バッハからの"招待状"or"挑戦状"!?~出版された《クラヴィーア練習曲》シリーズより (2025年3月)

 

大塚 バロックを代表する作曲家、と言われるバッハですが、職人として「依頼」されたミッションに答えるタイプの作品も当然ある一方で、だれからも頼まれていないのに、自らの芸術家としての意思でもって世の中に発信していくタイプの作品も残しました。その1つ、『クラヴィーア練習曲』のシリーズは、ライプツィヒの街で、第4部までが出版されました。バッハは、それまで教会や宮廷など、「わかる人にはわかる」という世界から、芸術が市民に広く開かれていく新しい時代の流れを感じ取っていたのでしょう。それまでの伝統的な技の集積、そしてときには難解ともいえる芸術の世界へ人々を招待するような~あるいはあなたにこれが理解できるだろうか、と 挑戦状” のように受け取った人もいたことでしょう~この魅力的な『クラヴィーア練習曲集』の世界をぜひのぞいてみていただきたいと思います。

 

Vol.5 "コンチェルト"と"ソナタ"~バロックの申し子たちの成長とその先 (2026年3月)

 

大塚 バロック音楽” が始まった時に、オペラ” が始まりましたが(vol.1)、同時に コンチェルト” ソナタ” といった、器楽のジャンルも確立・充実してゆきます。このバロックとともにはじまった コンチェルト” ソナタ” といったバロックの申し子たちは、さまざまな発展を見せ、そしてまた次の時代の音楽への扉も開いてゆきます。バロック期のさまざまな コンチェルト” そして ソナタ” を存分に味わっていただく回です。

 

大塚直哉 🄫E.Shinohara

 

大塚 直哉 OTSUKA Naoya, Cembalo
東京藝術大学楽理科を経て同大学院チェンバロ専攻、アムステルダム・スウェーリンク音楽院チェンバロ科およびオルガン科修了。アンサンブルにおける通奏低音奏者として、またチェンバロ、オルガン、クラヴィコードのソリストとして活躍するほか、こうした古い時代の鍵盤楽器に初めて触れる人のためのワークショップを各地で行っている。ソロCD「ルイ・クープラン:クラヴサン曲集」 (ALM RECORDS)のほか録音多数。現在、東京藝術大学音楽学部教授、国立音楽大学非常勤講師。宮崎県立芸術劇場、彩の国さいたま芸術劇場のオルガン事業アドヴァイザーを務める。「アンサンブル コルディエ」音楽監督。日本チェンバロ協会会員。NHK・FM「古楽の楽しみ」案内役として出演中。 

公式サイトhttp://utremi.na.coocan.jp/

 


C × Baroque シー・バイ・バロック
大塚直哉が誘うバロックの世界 Vol.1バロックの生まれた時~オペラの誕生

 

会場:神奈川県民ホール 小ホール 
日時:2022年3月26日(土)15時開演(14:15開場)
全席指定:一般4,000円 学生(24歳以下・枚数限定)2,000円